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札幌高等裁判所 昭和62年(く)19号 決定

少年 K・I(昭42.8.1生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、少年提出の抗告申立書に記載されたとおりであるからこれを引用する。

一  法令違反の主張(抗告理由第2項)について

所論は、原判示4の事実(覚せい剤の使用)について、少年は、警察官の職務質問が発端となつて覚せい剤使用の嫌疑をかけられるに至つたものであるが、同質問を受けた際、不当な暴行を受けた上違法に警察署に連行されたものであるから、その後に収集された尿など一切の証拠には証拠能力がなく、従つてこれらを採証の用に供して事実を認定した原決定には、決定に影響を及ぼす法令の違反がある、というものと解される。

そこで、記録を調査し当審における事実取調べの結果を合わせて検討すると、少年は、原・当審において、昭和62年7月19日警察官から職務質問を受け、少年の胸と肩を押し上げるようにして腕を見せるように要求された際素直にこれに応じなかつたところ、更に罵声を浴びせられたうえ、腕を引つ張られた旨供述しているのであるが、仮にそれがそのまま事実であつたとするならば、その警察官の行為は職務質問で許容される説得の域を越えた違法な行為であるといわざるを得ないが、他方、少年の当審供述によれば、少年は、その後自ら腕をまくつて警察官に見せたというのであるから、右違法はいまだ令状主義を没却するほど重大なものとはいいがたく、しかも、同供述によれば、少年は、尿検査をされても1回ぐらいの使用で覚せい剤の反応が出るようなことはあるまいと安心していたので、警察署への同行を承諾し、警察署到着後任意に尿を提出したというのであるから、同行以後の手続は適法であり、かつ前記違法が、本件事実認定の用に供すべき証拠を収集した採尿以降の過程にこれを違法とするほどの影響を及ぼすものともいえない。所論は前提を欠き採用することができない。論旨は理由がない。

二  事実誤認の主張(抗告理由第3項)について

所論は、原決定は判示4において、少年がAと共謀の上、昭和62年7月17日ころ、覚せい剤水溶液を自己の左腕部に注射して使用したと認定しているが、少年は覚せい剤を使用したことがないから、原決定には重大な事実の誤認がある、というのである。

そこで、記録を調査し当審における事実取調べの結果を合わせて検討すると、原審が取り調べた関係証拠によれば、原判示4の事実を優に認定できる。すなわち、関係証拠によれば、少年が昭和62年7月19日午前1時28分ころ任意に提出した尿について、同日北海道警察本部刑事部科学捜査研究所化学科技術吏員が、薄層クロマトグラフイー検査、ガスクロマトグラフイー検査、赤外線吸収スペクトルの測定などにより鑑定を行つたところ、覚せい剤が検出されたこと、少年の左腕には注射痕様の痕跡があること、少年は、同日行われた司法巡査の取調べに対し、原判示4の日時、場所において、覚せい剤水溶液を注射したと自白し、同月22日実施された引当りにおいては自ら捜査官に注射した現場を案内し、翌23日の取調べでは、更に詳細に右事実を供述し、その内容は心理面も含め具体的で臨場感に富み不自然なところがなく、前記鑑定結果など客観的な証拠とも整合性があり、信用するに足ることなどが認められ、これらの事実によれば、少年が原判示4の非行を犯したことは明白であるというべきである。少年は当審にいたつて、覚せい剤の使用を否認するが、覚せい剤使用歴のある少年の尿から覚せい剤が検出されているのにその理由を合理的に説明しえないこと並びに前掲各証拠に徴し、少年の当審供述は信用できない。論旨は理由がない。

三  処分不当の主張(抗告理由第1項)について

所論は、少年を特別少年院に送致する旨言い渡した原決定の処分は重すぎて著しく不当であり、本件については検察官に送致すべきである、というのである。

しかしながら、保護処分に対し検察官送致を求めて抗告することは、より不利益な措置を求めてする上訴であつて、制度の本質に反し、適法な抗告理由とならないから、論旨は不適法であるといわねばならない(なお、本件各非行の経緯、動機、罪質、態様、結果、少年の保護処分歴など、とりわけ、少年は、試験観察中に、しかもかつて覚せい剤取締法違反保護事件で中等少年院に送致されたことがあるのにもかかわらず、再び覚せい剤取締法違反の非行を犯したことを考慮すると、少年を特別少年院に送致する旨言い渡した原決定の処分は相当である。)。

よつて、本件抗告は理由がないから、少年法33条1項後段、少年審判規則50条によりこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 水谷富茂人 裁判官 高木俊夫 肥留間健一)

〔参考1〕抗告申立書

抗告申立書

生年月日昭和42年8月1日生20歳

氏名K・I

私に対する傷害・覚せい剤取締法違反保護事件について昭和62年7月30日札幌家庭裁判所において特別少年院送致の旨の言い渡しを受けましたが下記の理由により不服なので抗告を申し立てます。

抗告趣旨

◎今回、自分を検察官送致にしてほしかったのです。家庭裁判所の裁判官は「検察官送致にしたなら2年あたいの刑にもなりかねないので、それだったら1年間少年院に行った方が良いのではないか」と言い、裁判官も検察官送致にしてやりたい所なのだがそうした所で執行猶予がもらえることはむずかしいと言うのです。自分は、詳しいことはわかりませんが実際、どの様なものでしょうか。自分の今回の件を検察官送致とした場合の結果もよく、くわしく知りたい物です。

◎自分は今回の事件の時、ナンバー灯がついていないと言うことで(点灯していなかった)機動捜査隊に車の停止を指示されたのですが、ひどい扱かいでした。通りの多い路上で、うでを見せろと、自分の手を無理に引っ張ったり、えり首を強くしめつけたり、引き上げたりして「またげりされたいか!本当にやるぞ!本当にするからな」とも言われ、ひどい圧力でした。自分の時計のバンドなども切れてバラバラになると言う有り様でした。それから、自分を押さえつけて、電話もダメだと言って路上で自分をはなしてくれませんでした。調べのため連行される時も、その場から捜査隊の1人が自分の車を勝手に動かすと言った有り様でした。こんなやり方は、あまりにもやり過ぎではないかと思います。

◎機動捜査隊に連行され○警察署に行った時、尿を出せと言われ、出し調べを受けたわけですが、尿の結果は17日の物と言うことでしたが、17日だったとしたら、17日の使用は間違いなく有りませんでした。本当に17日の物だとかく定出来る結果が出ているのでしょうか、そうだとしたら考えられないです。

それから調べ室で機動捜査隊にピストルを向けられ、自分の手に押しつけたりもされとても不快でした。やり方がバカにしていると思います。

昭和62年8月12日抗告申立人K・I

札幌高等裁判所殿

〔参考2〕原審(札幌家昭62(少)1453号、1668号、1998号、2485号昭62.7.30決定)〈省略〉

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